代表 木村黒バック写真 コラム「組織の成長加速法」-第54回 衰退リーダーは、役割をねじ曲げて強弁し留まる 成長リーダーは、役割を演じ組織全体を踏み上げる

「R事業部長の製品知識、業界動向に関する知見は素晴らしいですね。(御社の中で)製品知識といえば、Rさんということで、若手の方々からもとても頼りにされているようですね。」とY社長に話かけると、ぱっとY社長の顔が曇りました。

そして、身を乗り出し、右手を大きく左右に振りながら、「全く価値なんかありませんよ。」
つづけて、「そんなもの、インターネットで調べればいいことばかりですよ。」と言い放ちました。

私は恍けて「では、社長、Rさんに最も期待されていることは何ですか?」と問いかけると、
「Rさんには、組織を動かせるようになってもらわないと、本人も、そして、部下にとってももキツいですよ」と。


この場面、コンサルティングを手がけているとよく遭遇します。

社歴、職歴が長くなり、そこそこの役職もついているのに、組織動かす技術を獲得していないという40代、50代のベテラン社員、幹部社員。もちろん、ベテランとして、会社にも貢献をしています。会社の寿命が30年だとしたら、こうした社員は、会社の宝です。

ところが、100年以上続く企業にとっては迷惑千万な存在になってしまう。ちょっと想像してみてください。過去に「自分の技術は、自分だけのもの。他人に教える必要などない」という人が、先代、先々代にいたとしたら、今日の100年企業はないからです。

技術が受け継がれ、改善が加えられ、そしてまた次代に引き継がれる。100年以上続く企業を目指しているなら、一番技術、スキルを持ち、稼ぎ頭である40代、50代社員のこそが次代の育成に深く関わるのが筋です。「俺は自分の好きなことだけやる。他人の育成などまっぴらだ」100年企業を目指すとしたら、看過できないのです。


こうした40代、50代のベテラン社員に直接話を聞くと共通項目があります。「自分の好きなことは徹底してやる」というもの。

一見、素晴らしい生き方をされているように思えるのですが、「徹底してやっているレベル」が問題なのです。もちろん、社内では第一人者です。でも、社内でしか通用しない社内第一人者であって、社外に出たら・・・。

これまた中途半端な専門家に共通するのが、自分の知識、技術の出し惜しみです。突き抜けた成果を出す人というのは、どの業界、どの領域の専門家でも、こちらが恐縮するくらい。だし実惜しみ無く教えてくれるものです。知識は貯めると腐ることを知っている人達です。

「教えるのを嫌がる」のは、自分の地位を脅かされることが恐いというのが主な理由です。が、所詮その程度だとも言い換えられる。その証拠に、そういう人にその内容を聞くと、「凄く高度である」「ちょっとやそっとでは理解できないし、その知識、技術を獲得できない」
と言い張ります。そう合って欲しいのでしょう。でも、決してそうじゃない。

知識ゼロ、実績ゼロの若者が、1年目にして業界歴20年、30年のベテランを遙かに超えるといった事例を何度も目の当たりしました。

あんまりにも「(若者には)難しい」と繰り返すものですから、「難しいから、教えてあげたらいいじゃないですか?!」と突っ込むものなら、「人に教えるのは好きではない」とか「どれだけ時間が掛かるかわからない。そんな時間はない」と強弁するわけです。

多くの企業で、専門家気取りの40代、50代の存在厄介な問題として、経営者にのしかかっています。ですがこの問題の根本原因を探っていくと、新入社員の時から、こうした自己擁護をする社員というのは稀なんです。

つまり、自己擁護をする社員が増殖する環境にあったのです。もちろん、40代、50代になって、本人の責任も免れませんが、そうした環境がその人を作った。大スター頼みの組織は、大きなほころびを作り続けているようなもの。建物を支える何本かの柱の一つがある日ボキッと折れたらどうでしょう。その状態で強い風が吹いたり、中程度の地震が来ようものなら、崩落の危険が伴うのです。

大人が4人で手を伸ばしても足りないほど太い幹をもった樹齢数百年の大木も、芽が出たときは、直径数ミリの茎。3-4歳児でもたやすく折ることができます。ところが、あれほど柔らかかった茎も、大木になると幹になり、その幹はもはや人力だけでは、どうすることも出来なくなります。

最初はほんの小さなすれ違いですが、10年、15年も経つと、そのズレを修正するのは途方もない労力と時間を必要とします。すれ違いを放置してはいけないのです。


一方で、組織を作れないトップセールスマンというのは、世の中に溢れているのも事実。そういう人達への対処はどうしたらいいのでしょうか?

これは、企業の規模によりますので、一概には言えませんが、2つの対処方法があります。ポイントだけお伝えしましょう。

1つは、仕事の領域を定義すること。役職に応じた専門スキルと社内コミュニケーションスキルを定義する。まさに、これにより環境が整備されています。

もう1つは、専門家スキルのみでも良しとする制度の導入です。昨今は、どちらかというと、社内コミュニケーションが苦手だからという理由から消去法で専門家を目指す割合が増えています。

専門家としてのスキルレベルの評価を明確化することで、中途半端な社内専門家の出現を予防し、中長期の発展に必要な社内環境を意図的に生み出すことができます。どちらも、非常に上手くいった事例がありますので、どちらかじゃなければダメということではありません。


一方、組織をして成果を出すリーダーは、自らが専門家としていつまでも第一線で動くことは自分の役割ではないことを知っています。実際、何人もの創業社長から、「本当は昔のように現場に出てるのが一番好きなんだ!」と聞いたことがあります。そして、皆さん同じように次ぎのようにおっしゃる。「でも、それは自分の役割ではないからね。」と苦笑い。

あらゆる業種、業態において、お客様との接点では常に専門知識が必要となります。あらゆる企業の成長リーダー自身、一度はこの専門家を経験しているのです。組織の成長に合わせ、会社から求められる役割に合わせるべく努力した人達です。

専門家になる努力は決してムダでもありませんし、価値のあることです。一方、持続的に成長している組織は、専門家の数が多いから成長しているのではなく、
専門知識はあくまで基礎として扱い、組織で成果を上げられるリーダーの数で成長しているのです。


さて御社では如何でしょうか?
社歴が長いほど、組織をして成果を出すリーダーが多いでしょうか?
それとも、組織を任せられない社歴の長い専門家が多いでしょうか?