代表 木村黒バック写真 コラム「組織の成長加速法」-第49話 衰退組織は 商品の品質が暴走する 成長組織は 商品の品質と契約率をバランスさせる

「いいですか!Sさん!私達は業界でも最高の品質を提供しているんですよ。顧客の満足度も高い。だ か ら! 売れるようになったんですよ!!!」と事業部門のトップのNさんが語気を荒げてSさんを睨み付けて言いました。

ある企業の取締役会での一場面。

Sさんが、この1年間の業績のV字回復を実現したSさんが自ら企画立案、実行してきたマーケティングの施策との業績との関連を説明した時のことでした。

Nさんは、業界でも知れ渡り、関連学会でも、注目を浴びている人で、組織上はサービス部門の品質安定顧問的な位置づけでしたが、Nさんの発言の影響力は大きく、Nさんが事実上の部門トップでした。

Nさんの持論は「最先端の技術を常に取り入れ、最高のサービスを提供することが組織にとって最善であり、最強である」「この姿勢こそが、顧客に支持される根幹である」というもの。


2年前に旧経営陣の辞任により、マーケティング担当者として着任したSさんは、次々と新しい施策を実施しました。新規顧客の増加をある程度見込めるようになったところで、Sさんは次なる施策に取り組んだのです。

それは、紹介率の向上です。Nさんの率いる部門に対して、低下傾向にある紹介を増やすべく様々な販促ツールの見直しと、顧客との接点での紹介促進を強く押し進めてきました。

Sさん曰く「Nさんにも説明し、協力を取り付けた上での実行だった」とのことでしたが、徐々に広がる紹介促進策に対して現場の抵抗が強かったこともあり、いつの間にか「品質担保を揺るがす不届きな試み」としてすり替わっていきました。

このとことは、会社の1年半前からの業績順調な回復軌道からの大きなズレを招くことになるのですが、この時は、Nさんにも、Sさんにも、そのことの重大性と強度は理解できていませんでした。

この時をきっかけに、Nさんは、Sさんの協力依頼を一切拒否するようになり、Sさんのマーケティング施策は広告を中心とした施策に頼らざる得なくなりました。


ネット上で販売が成立するような商品、サービスなら話は別ですが、販売プロセスの中で顧客接点がある商品、サービスのマーケティングの場合は、顧客接点がクロージングのタイミングとなります。

クロージングが甘い場合は、全てのマーケティング施策は失敗に帰します。

この組織にも同じことが起こりました。Sさんは、紹介率の向上の施策を進めることで、マーケティングの施策で集客した見込み顧客のクロージング力を高めることを計画していました。しかし、紹介率の施策がNさんの抵抗によりストップすることになったのです

それまで現場レベルでは、Sさんに協力的だったメンバーも、Sさんの手前、動きずらくなり、諸々の打ち手が施行される前に戻っていきました。現場のクロージングのやり方は、いつのまにか顧客目線から、提供型目線が強化される始末で、成約率は高くなるどころか、減少に転じました。

そんな状況でSさんも手を拱いたわけではありません。マーケティングの施策の追加を行うと同時に、契約率を改善すべく、その後も顧客との営業トークとの改善、接点後のフォローアップの仕組み等の改善に取り組みますが、Nさんの影響力の前にSさんの努力はなかなか実になりませんでした。

マーケティングの施策は短期間ではある程度一巡してしまいます。無限に見込み客を増やし続ける単一の方法はありません。着実に売上げにつなげるためには、見込み客の獲得が上手くいっているうちに新たなマーケティングを仕掛けていくことです。この成長サイクルを作れなければ、マーケティングコストを回収することが出来ずに、尻すぼみになります。

契約率の低下により、マーケティングの打ち手は徐々に狭められて行きました。

Sさんに落ち度がなかったかというと、もちろん改善する余地はあったのでしょう。クロージング力が高まらない中で、売上げが低迷、その状態が継続することで、今度はマーケティングコストがやり玉に挙げられるようになります。

Sさんは取締役会の度に成果に対する追求を受けることになります。最初のうちは事態の推移を客観的に分析し、マーティング施策の改善策と、クロージング強化のための打開策を提案していましたが、結果的に成果が振るわないことに対して、Sさんは自分自身を責めるようになっていきました。そして、遂に、Sさんは、「この環境でもう成果は出せない」と退社の道を選びます。

その後にNさんが、マーケティングの部門も含めて統括することになりました。しかしNさんが言っていた「最高の品質」が世に広がることはありませんでした。認知が広がらなかったのです。

結局この組織は、固定費削減に手をつけざる得なくなり、移転も余儀なくされ、人件費削減ということで縮小均衡に陥ることになりました。


「質が高ければお客さんは買ってくれる」これは、確かに事実です。でも、もう一つの事実もあります。「その質に気がつかない人は買ってくれない」という事実です。

認知されなければ、質が高いかどうか以前の問題です。ところが、提供側が真面目に質を追求すればするほど、Nさんほどではないにしても、同じ落とし穴にハマるケースはとても多い。

「これほど高い品質なのだから、他社は追随できるはずはない。」
「これほどの努力をしているのは、他にはない。」
「うちの商品、サービスを買ったお客様は、他社の製品を買うお客様に比べればきっと満足度は高いに違いない」
だから、だから、だから、、、
「我が社の商品、サービスは売れるはずだ!」

これを読んでいる方は、「そんな馬鹿なことがあるものか、一昔前じゃあるまいし」とおしゃるかと思います。

これは、私の勝手な肌感覚値ですが、「売上げ絶好超です!」という企業以外で、自社の商品サービスに自信がある!という会社でしたら、95%の確率でこの問題を抱えています。マーケティングの教科書では常識のことも、組織の最前線では必ずしも常識になっていないこと、そして、いざ自分のことになると盲点になってしまう。人と組織の素性がこの盲点を作り出すしてしまうのでしょう。

そして、この問題は、組織にとってもう一つの深刻な問題を誘発します。この辺りは、次回お話しいたしましょう。

自社の商品、サービスに自信を持ち、マーケティング、営業が強い会社は、商品、サービスの改善と同等、または、それ以上にマーケティング、営業に力を入れています。認知を広めることに大変な労力を割いています。

マーケティングもまた、セオリー通りには行きませんが、とにかく試行錯誤を続けています。営業は、行動量を担保し、これをまた継続します。この質の追求と販促活動の改善、強化は、どの業種、どの業態によっても、必須のことです。


さて、御社では如何でしょうか?
御社のサービス、商品の質は改善されていますか?
また、その商品サービスの質の改善同様に、マーケティングの改善は進んでいますか?